研究室志望の学生の皆さんへ                 
川村 光

はじめに

相転移とは


主な研究内容: フラストレーション スピングラス 地震

配属後の研究の進め方: 院生 学部生

はじめに

皆さん、こんにちは。理論物質グループ・教授の川村です。

このページでは、当理論物質学(川村)グループで、どのような研究が、 何を目指して、どのように行われているかを簡単に説明したいと思います。

当グループは物性理論・統計物理を専門とする研究室です。大学院においては理学研究科・宇宙地球科学専攻に、学部においては理学部・物理学科に属しています。

また、大学院入試の面接グループではC2(理論 II )に属しており、物理学専攻の他の物性理論研究室と共通で面接を行っています。 広範な物性理論領域の中にあって、当研究室では統計力学的な概念や手法に基づいて、物性科学・地球科学分野における諸現象に迫ろうというアプローチを特徴としています。相転移や磁性等の物性の問題から地震現象の理解に至るまでの幅広い自然現象に対し、統計物理的な観点からチャレンジしその本質に迫ろうという、ある意味とても野心的なアプローチです。「世界が広く多様なら、物理も広く多様に、、、」と考えています。

自然界には多様な物質がありますが、それらは互いに影響を及ぼし合ったり協調したりして、より複雑なシステムを構成しています。当グループでは、ミクロなスケールでは原子分子から、マクロなスケールでは宇宙地球に至るまでを、多自由度の相互作用系として理論的に解明する研究を携わっていますが、目下の2大テーマは、物質の示す多様な相転移現象・非平衡ダイナミクスと、固着‐滑り不安定性としての地震現象です。これらテーマの研究を、計算機シミュレーションを用いた数値的な研究と解析的な理論研究を組み合わせつつ、行っています。その際、実験や観測結果を常に視野に置きつつ、特に実験(観測)家とのコンタクトを重視する研究スタイルを取っています(当研究室のセミナーでは、理論家より実験家のお話を伺う機会の方が多いかもしれません)。理論家として現実を見る目とセンスを養うのは、とても大切なことです。

現在、大学院生・卒研生のほとんどは、上記2つのテーマに沿った研究をしていますので、以下では、それぞれについて、もう少し詳しく御紹介しましょう。

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相転移現象

相転移とは、例えば水が氷になるような(凝固・融解現象)、わずかな外部条件の変化によって物質がその性質を一変させる現象のことで、他にも、気体−液体間の相転移(気化・液化現象)、強磁性のような磁気相転移、極低温で金属の抵抗が消失する超伝導転移、液体ヘリウムが極低温で示す超流動転移、固体の結晶構造が変化する構造相転移、合金内での分子の配列が変わる規則不規則転移、液晶が示す分子の配向相転移等々、自然界には実に多様な相転移があります。

マクロに見ると、これら相転移点付近では物理量が発散的挙動を示すといった類 の、極めて顕著な異常がしばしば観測され、「臨界現象」と呼ばれています。

他方、これらの相転移現象をミクロに見ると、多自由度相互作用系の示す協力現象とみなすことが出来ます。この2、30年で、相転移・臨界現象の物理には非常に 大きな進歩があり、我々の相転移現象に関する理解は格段に深まるとともに、関連 分野への波及効果が広まりつつあります(当グループの研究もこの流れの中に位置 づけることが可能でしょう)。

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フラストレーション

近年、物性・統計物理学において「フラストレーション」 という概念が注目を集めています。これは、様々な最適化条件が互いに競合し、系がそれらを同時に満たすことが出来ないような、「あちらを立てれば、こちらが立たず」といった状況を指します。

このようなフラストレート系では、自明な最適化条件が存在しないために系は 一般に不安定となりやすく、大きな揺らぎの効果が発現したり、時には非フラストレート系では見られない新しいタイプの熱力学的状態や相、新奇な電磁応答等が実現されます。フラストレーションは自然界では広く見られる極めて一般的な現象ですが、物性物理としては、磁性体・金属・誘電体といった様々な凝縮系を舞台に、フラストレーションが生み出す新規物性の研究が、近年特に活発化しています。特に、2007〜2011年度の5年間にわたって、文部科学省科学研究費補助金(科研費)の特定領域研究「フラストレーションが創る新しい物性」が採択され、川村が領域代表者を務めました。このプロジェクトは幾多の成果を得て成功裏に終了しましたが(現在は、川村を代表者として、基盤A科研費「フラストレート磁性体の新奇秩序化と異常伝導現象」が走っています)、フラストレーション研究は、今もさらなる発展を見せています。

当研究室では、格子の幾何学的構造に起因したフラストレーションを持つ一連の磁性体の磁気秩序化現象とそれに伴って発現する様々な異常物性の解明に、関連した実験グループと密接な連携を持ちつつ(阪大には、この分野の素晴らしい実験グループがいくつもあります!)、取り組んでいます。特にフラストレーションに伴って出現する新しい自由度 ― 代表的なものとして「カイラリティ」と呼ばれる右・左(掌性)の自由度 ― や、それらが織り成すナノスケールのトポロジカル励起、超構造が担う新物性の開拓に力を入れています。

また、フラストレーションと強い量子効果が、全く新しい物質相として「量子スピン液体」を実現させると期待されており、その研究も鋭意進めています。このようなフラストレート磁性体には、絶縁体のみならず金属のものも多数存在し、そこでは磁気的フラストレーションと伝導電子の絡みが、重い電子的な挙動、異常ホール効果といった興味深い伝導現象を引き起こします。このような伝導電子とフラストレートしたスピンが結合した系の研究にも、力を入れています。


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スピングラス、コンプレックス系

スピングラスというのは、所謂「コンプレックス系」の典型例として、統計物理の分野では長らく特別の興味を集めてきた系です。元々は、強磁性的相互作用と反強磁性的相互作用がランダムに混在し競合するランダム磁性体のことを指しますが、最適化問題、ニューラルネット、構造ガラスなど関連他分野への広い研究の裾野を持っています。当研究室では、元来の磁性体としてのスピングラス問題に特に興味を持って研究を進めています。

 川村は、スピングラス磁性体においては、フラストレート系で重要な役割を果たすカイラリティが隠れたオーダーパラメータとしてスピングラス転移を支配しているという仮説(スピングラスのカイラリティ機構)を提唱してきました。研究室としても、カイラリティ関連の数値シミュレーションに特色があります。計算手法としては、物性研等のスーパーコンピュータを用いた大規模数値シミュレーションが主になります。スピングラスの数値シミュレーションは、計算物理的観点からも最前線のトピックで、効率的なアルゴリズムの開発やコーディング技法等、計算機を駆使するテクニカルな面においても、非常にチャレンジングなテーマです。

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地震の統計モデルの数値シミュレーション

当研究室では、地震の物理学の開拓にも継続して取り組んでいます。統計モデルに基づいた数値シミュレーションや地震カタログデータの解析が主な研究手段となります。地震はプレート運動によって駆動された断層が示す固着−滑り(stick-slip)不安定性であり、摩擦の物理法則に支配されます。当研究室では、統計物理的視点と手法をベースに、固着−滑り摩擦不安定現象としての地震現象の物理の探究を進めています。

 地震というのは、御存知のように、予測が難しい複雑な現象なのですが、その「複雑さ」の起源が何処にあるのかは、実はそう自明な問いではありません。地震の複雑性は断層の物性の不均一性や関係する物理法則の複雑さを反映しているという考え方が一つあります。他方、ある種の物理系では、複雑な現象や複雑な状態が、極めて単純な法則や均一な物性パラメータから「自己生成」されることは、実は珍しくありません。どちらが真実に近いのでしょう?

また、近年の地震学で中心的な役割を果たしている概念に「アスぺリティ」というものがあります。これは、普段は強く固着していて地震時に大きくずれる領域を指します。それでは、アスぺリティ領域とは、摩擦係数等の物性パラメータや地形等の条件が周囲と異なる元々特別な領域なのか、あるいは、元々は何も特別なことがなくとも系の中に動的に自己生成されるものなのか、どちらなのでしょう?地震学者は通常前者の考え方を取りますが、我々のモデル計算によると、実は後者も十分可能なのです。

関連して“地震は一体どうやって停まるのか?”というのも問題です。他の場所と異なった性質を持つ停まり易い特定の場所に行き当たった結果停まるのか、あるいは、完全に均一な状況であっても内在的なメカニズムにより停まり得るのか、どちらなのでしょう?これは地震の規模(マグニチュード)の問題とも直結した大問題です。

GPS観測網の整備等の近年の観測技術の進歩により、高速すべりを伴う通常の地震とは桁違いに遅いゆっくりしたすべり(スロー地震)が起きていることが、最近判ってきました。また、高速破壊の地震の前駆すべりとして、地震破壊核形成過程としてのスロースリップが起きる可能性も研究されています。スロースリップ現象の発見は、地震現象をより広い視点から見ることを可能にしたという点で、画期的な進展と言えるでしょう。当研究室では、モデル・シミュレーションによる研究に基づいて、これらスロー地震や前駆すべり等のスロースリップ現象の物理プロセスとしての起源と通常の高速すべり地震との異同・関連を調べています。

このように、地震の物理学は、実は判っていないことだらけなのです。どうです、我々と一緒に探究してみませんか?

以上、現在のグループの主要テーマについて紹介しました。ただし、テーマ選択自体についてはかなり柔軟に考えています。実験や観測の裏付けを持つ現実の現象を念頭に、統計力学的ア プローチによる研究を(多くの場合、計算機を用いて)行う、という位の大きな枠の範囲であれば、上記以外のテーマについても十分可能です。 このような精神で、物性科学や地球科学の諸問題にチャレンジしてみたいと考える熱意のある皆さんの参画を、心よりお待ちしています。

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グループ配属後の研究の進め方

最後に、卒研生や大学院生としてグループに配属された場合、 どのように実際の研究が進められるかについて、大学院・学部毎に簡単に説明しておきたいと思います。

大学院生

必要があれば、まず計算機シミュレーションのやり方等について、2,3ヶ月の予 備的レクチャを行います。修論のテーマは、通常M1の夏休みまでのかなり早い時 期に出します。

具体的なテーマについては、本人の要望があれば最大限尊重しますが 、通常はこちらからテーマを出すことが多いです。テーマが決まったら、2週に1回程度の割で指導教員に進捗状況を報告 して指導・助言を受けつつ研究を進めます。他に、毎週水曜(もしくは火曜)の1時半から3時に行われる研究室セミナーへの出席・聴講が義務づけられます。セミナーでは、物性物理、宇宙地球科学分野の専門家(教員、大学院生)に最新の研究の話題と成果を紹介して頂いています。

修士課程自学中に少なくとも1度は、この研究室セミナーで研究の成果を発表して 頂くことが目標になります。研究室セミナー以外に、通常は修士課程在学の2年間 の間に少なくとも1度は、学会での発表を経験していただいています。もちろん、 2度、3度発表する方もいます。そして、M2の年度末には、2年間の研究結果を 修士論文としてまとめて提出するとともに、専攻の修士論文発表会で発表を行います。

博士課程でも基本的には同様のやり方ですが、より大学院生の自主性を尊重するやり方になります。例えば、指導教員への状況報告も非定期でよいことになるでしょう。グループとしては、博士への進学に意欲を持った方を大いに歓迎します。

学部生(卒業研究)

計算機シミュレーションのやり方等について、2,3ヶ月の予備的レクチャを行います (この部分は全員いっしょ)。その後、各人毎に異なった卒研テーマを与えます。

以降の1年弱をかけ、各人毎にこのテーマの研究に取り組んでいただきます。 その際、必要になる研究室内での机や計算機等については最大限配慮します。

通常、テーマは単なる演習問題ではなく、第一線の研究につながるようなある程度 本格的なものです。2週に1回程度の割で指導教員に進捗状況を報告して指導・ 助言を受けつつ研究を進め、年度末には研究結果を卒研レポートとしてまとめて を提出するとともに、卒業研究発表会での発表を行います。たとえ、たとえささや かな問題であっても、「誰もやったことのない、そして教員も答えを知らない」 問題に「自分自身の頭を使い手を動かして」取り組む事を通して、研究すると はどういうことなのかを体得して頂くのが狙いです。

なおこれとは別に、毎週金曜(もしくは水曜)の1時半から3時に行われる研究 室セミナーへの出席・聴講が義務づけられます。セミナーでは、物性物理、宇宙地球科学分野の専門家(教員、大学院生)に最新 の研究の話題と成果を紹介して頂いています。